第17章 やさしい花束〈不死川実弥 / 時透無一郎〉
「…でもぼく、おはなを、ぺ、ぺしゃんこに、しちゃったよ」
「でも見て無一郎。まだ蕾もついてるし、それに押し花にできそうよ。お母さん、とっても嬉しいの。大切に飾るね」
「無一郎、偉かったなァ。かれんとずっと無一郎の帰り待ってたんだかんな」
実弥も無一郎の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「…ぼく、おつかい、できなかった…」
「ううん、そんなことないわ。一人でお店に行って、ちゃんとお花を買えたのよ?無一郎はとっても立派よ」
「…かあ、さん…っ」
無一郎は熱くなる目頭を必死に抑えながら、かれんに抱きついた。
「オラ、冷えちまうから家に入れ。かれんが無一郎と玄弥にケーキ用意してあんぞォ」
「!! ほんとう??」「マ、マジっすか…!?」
「うん!大したものじゃないけど!みんなでいただきましょ!」
家の明かりがぽっと灯り、かれんの作ったケーキを頬張りながら4人は楽しいひとときを過ごした。
・・・
それから数年後────
とある日曜日の午後のこと。
「ただいま」
「あ、無一郎、おかえり!」
無一郎は大学生になっていた。背丈もぐんと伸び、かれんの身長も追い越していた。
「…はい、これ。母さんに」
「??」
無一郎が差し出したのは、ミモザのブーケだった。
「…!! すごい!とっても綺麗ね…!!」
「今年はミモザにした。母さんテレビで見て好きって言ってたから」
「覚えててくれたの?ありがとう…!大切に飾るね」
無一郎は季節が変わるごとにかれんに花束を贈った。
「お庭のクリスマスローズ、見た?今年は去年よりもたくさん咲いてるの」
「うん、見たよ。…まさかあの一輪の蕾からここまで大きくなるなんて思わなかった」
あの日。無一郎が初めてかれんに贈った蕾のクリスマスローズが花瓶の中で根をつけ、試しに庭に埋めてみたところ、それは毎年少しずつ広がっていった。そしてこの季節になると、庭一面に雪が積もったように、白く美しい花を咲かせるようになったのだ。
かれんと無一郎は家の中から、庭を眺める。陽の光を燦々と浴びて、風に揺れるその姿は夜空の星が瞬くようにも見えてくる。
「ほんと、綺麗だなァ」
かれんと無一郎の後ろから実弥がやってきた。