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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第17章 やさしい花束〈不死川実弥 / 時透無一郎〉




(無一郎…っ!!偉い、偉いぞ…!!ちゃんと買えたな…!!)

花屋の向かいの道の電信柱の影から、玄弥が涙を堪えながらその一部始終を見ていた。

(…おし、後で兄ちゃんとかれんさんに見せよっ!)

玄弥のスマホには連写で撮りまくった無一郎の写真が何十枚も保存されていた。玄弥はスマホを上着のポケットにしまい、再び無一郎の後をついていった。

・・・

無一郎は来た道をとことこと歩き、家路に向かっていた。

(…あと、このしんごうきだけ)

この横断歩道を渡れば家に着いたも同然だ。信号機は青に光っており、無一郎は小さい手を上げて渡った。すると信号機がチカチカと点滅を始めてしまった。

(…!)

無一郎は向こう側の道を目指して、一生懸命に走った。信号機は無一郎がちょうど横断歩道を渡り切った頃に、赤信号へと色が変わった。


(…良かった、間に合った…っ)

その様子を、玄弥もヒヤヒヤしながら見守る。何とか赤信号に変わる前に、無一郎が渡り切るのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。


無一郎も少し上がった息をふうと吐き切る。

ふと、自分の手元が軽くなっていることに気付き、無一郎は紙袋を見るが、ブーケの姿が見当たらない。

(あれ、おはな…!)

無一郎は慌てて後ろを振り返ると、横断歩道の真ん中にブーケが落ちていた。走った拍子に紙袋から落ちてしまったのだ。

(!!!)

しかし、信号機は赤になったばかりだ。無一郎はどうすればいいか分からず、その場に立ちすくんでしまう。そして数台の車が勢いよく行き交い、ブーケは呆気なく引かれてしまった。


( ……! )


その光景に、無一郎の目からは次々と涙が零れ落ちる。


玄弥は無一郎が横断歩道を見ながら、泣いているのに気付いた。何があったのかと慌てて、無一郎の視線の先を見ると、車に引かれてしまったブーケが横たわっていた。


「無一郎!!!」


玄弥は走り、無一郎のいる反対側の道から叫んだ。

その声にはっと顔を上げた無一郎だが、玄弥を見るや否や、俯き更に泣き出してしまった。

「うぅ…げんやおにいちゃ…っ」

「今行くから!!そこで待ってろ!!」

横断歩道の信号機が漸く青に変わった。
玄弥は潰れてしまったブーケを拾い上げて、無一郎の元に駆けていった。

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