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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第17章 やさしい花束〈不死川実弥 / 時透無一郎〉




無一郎が向かっていたのは、花屋だった。
正月の親戚の集まりで貰ったお年玉で、実弥とかれんに何かプレゼントをしたいと無一郎が話してくれたのだ。実弥には、かれんと夕飯の買い物に出かけた時に、商店街で人気のおはぎを買ってあげた。
かれんには花を贈りたいとのことで、しかも一人で買いに行きたいという無一郎の意向で、今回“一人でお使いデビュー"が決まったのだった。


かれんは何かあったら危ないからと何度も無一郎を止めようとしたが、どうしても一人で行くと聞かない無一郎。かれんは嬉しくもあったが、心配で堪らなかった。実弥はかれんを説得させるべく、当日は弟の玄弥をこっそり尾行させるからと話し、漸くこの日を実現させることができたのだ。



(無一郎、今どの辺かな、もうすぐお花屋さんかな…)


かれんは心配そうに、窓の外を眺めていた。

「…無一郎、きっと今頃、かれんの好きそーな花、一生懸命選んでるんだろうなァ」

背伸びをしながら、花を探す無一郎が目に浮かぶ。実弥はその姿を思い浮かべて、小さく微笑んだ。かれんは実弥の優しい笑顔に、不安の気持ちが少しずつ解れていく。

「ふふ、きっとそうね。…小さい時、なかなかおしゃべりしなくてどうしようって焦ってたこともあったけど…、『とと、かか』って初めて呼んでくれた時、すっごく嬉しかったなぁ」

「あンとき、“ああ、父親になったんだな”って改めて実感したもんなァ。…いつかアレだぜ?スッゲェ可愛い彼女とか連れてくんじゃねェのか?」

「えッ!!無一郎が恋人を…!ああっ、ダメ!嬉しいけど、泣いちゃうわっ!」

大きく成長した無一郎を想像して、かれんはぐすぐすと鼻を啜っている。実弥はよしよしと、かれんの頭を撫でた。

「ガキはいつか家を出てっちまうが、…俺はずっとかれんと一緒だ」

「…うん。実弥さん、ありがとう」

「…ンで今になって“サン“付けしてんだよ…っ」

「なんか急に、実弥さんと付き合ってた時のこと、思い出しちゃって…」

「…ったく、かれんは…不意打ちつきやがって」

「…ふぇ?」

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