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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第17章 やさしい花束〈不死川実弥 / 時透無一郎〉




無一郎はくるりと向きを変えて、とことこと道を進んでゆく。途中何度か振り返り、かれんと実弥に手を振った。

無一郎は、かれんと実弥の傍を自ら離れる感覚に戸惑いつつも、一歩一歩を踏みしめるように歩いた。

道の角を曲がる前に、無一郎は最後にまた手を振った。
かれんも実弥も大きく手を振り返えすと、無一郎はその角を曲がっていった。


すると、実弥がスマホを取り出し、誰かに電話をかけ始めた。


「…あ、玄弥か?今、出てった。…ああ、折角の休みンとこ悪ィな」


玄弥は実弥に頼まれ、家から少し離れた場所から、無一郎が大通りに出てくるのをこっそり待ち構えていたのだ。

『全然へーきだって!…あ、無一郎が通りに来た!今、横断歩道渡るとこ。ちゃんと手も上げてる!…兄ちゃん…、なんか俺、泣きそう…』

電話の向こうで声を震わせる玄弥に実弥は笑みを落とした。無一郎の様子も聞けて、実弥はほっと胸を撫で下ろす。

「ほんとすまねぇなァ。まじで助かる」

『兄ちゃん、全然気にすんなって!ちゃんと追跡すっから!なんかあったらまた連絡する!』

プツッと電話が切れ、実弥がスマホをポケットにしまう。隣にいるかれんはうるうると目元を潤ませていた。

「…うぅ、実弥…。玄弥くん、何だって…?」

「ちゃんと手ェ上げて、横断歩道渡ったとよ」

「…そっかあ、偉い、偉いねぇ、無一郎…。でもだめだ…、私今すぐ追いかけたい…。何かあったらどうしよう」

実弥は目を細めながら「もう泣くな」と服の袖口でかれんの涙を拭いてくれた。

「無一郎が初めて一人で何かやりてぇつったんだ。…きっと、かれんの喜ぶ顔を、無一郎は見てぇんだろうなァ」

実弥の言葉に、かれんははっとした。ここで無一郎の帰りを笑顔で出迎える、それが自分が親として果たすべきことだと気付かされた。

「実弥、ありがとう。…私がこんなんじゃ駄目よね。玄弥くんもいてくれて…、そして無一郎を…信じなきゃね…っ」

「かれんは全然駄目なんかじゃねぇ。…親ってのは、自分の子のことになりゃあ、どんな小せぇことでも心配になっちまう生きモンだかんなァ。…無一郎なら、きっと大丈夫だ」

「うん…!」

実弥はかれんに微笑むと、その手を握りしめて、家の中に入った。

・・・

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