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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第17章 やさしい花束〈不死川実弥 / 時透無一郎〉




「無一郎、小銭入れ、持ったか?」

「うん」

「ハンカチも持ったか?」

「うん、もったよ」

「あと…忘れモンはねぇな?」

「うん、だいじょうぶ」

「道はもう覚えてんだもんなァ?」

「うん、かあさんといつもいってるから、おぼえたよ」

「そうかぃ。無一郎は賢いなァ」

家の玄関で実弥と、小さなポシェットの中身を確認する無一郎。実弥は無一郎の小さな頭をぽんぽんと撫でる。無一郎も嬉しそうに口角を上げた。無一郎は実弥のあたたかい掌が大好きだった。

4歳とは思えないほど落ちついた性格の無一郎。時々発する大人びた言動に、かれんも実弥も驚いてしまうほどだ。


「無一郎、本当に一人で大丈夫…?やっぱり、お母さんも一緒に行こうか?」

かれんは無一郎の首元にマフラーを巻く。どうしても心配の色を隠せない。

「だいじょうぶだよ。ひとりでいける」

「…うん、分かった。…無一郎?知らない人にはついていっちゃだめよ?近道もだめ。いつもお母さんも一緒に行く道を歩…」

「かあさん」

無一郎がじっとかれんを見つめた。

「ぼく、ちゃんとできるから。だから、しんぱいしないで?」

「…無一郎…」

無一郎が笑った。子どもは自分の知らないところでどんどん大人になっていく。それはとても嬉しく幸せなことなのに、何故かほんの少しだけ寂しくなってしまう。でも、一生懸命に頑張るその姿は、とてつもなく愛おしくて堪らないのだ。


玄関の外でかれんと実弥は、無一郎を見送る。
無一郎の吐く口元の息が白い。かれんは無一郎の視線に合わせてしゃがみ、手袋をはめてあげた。

「寒くない?大丈夫?」

「うん、へいき」

「…無一郎、気をつけてね。お父さんと一緒に無一郎の帰りを待ってるね」

「うん、いってきます」

かれんは無一郎の小さな体をぎゅっと抱きしめた。無一郎も小さな手でかれんの服を掴んだ。

「かあさん、たのしみにまっててね」

「うん…っ!たのしみに待ってるね!」

無一郎と顔を合わせる。その笑顔にかれんは泣きそうになってしまうも、ぐっと涙を堪えた。

「とうさん、いってきます」

「おぅ、気ィつけろよ」

実弥ももう一度、無一郎の頭を撫でた。

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