第14章 聲の向こう〈煉獄杏寿郎〉
(このコーギー…まさか…っ)
「もしかして、君の名前は“杏”か…!?」
そのコーギーの耳がピクッとそばだち、杏寿郎の目をじっと見つめると「ワン!」と吠えた。
(…!やはり…!!)
「杏、頼む。かれんさんのところへ案内してくれないか?」
「ワン!」
杏寿郎は杏のリードを握りしめて、一緒に駆け出した。杏は杏寿郎を気にしながら、こっち!と言わんばかりにリードをぐいぐいと引っ張る。
杏寿郎は杏が進む方向に走った。
・・
(杏…どこに行っちゃったんだろう…っ)
かれんは完全に杏を見失ってしまった。今まで勝手に側を離れることなど、杏は一度もなかったのだ。杏に何かあったらどうしようと、涙で視界が滲む。
(杏…どこにいるの…っ??)
「かれんさん!!!」「ワン!!」
「…っ!?杏!!…と、杏寿郎さん…っ!?」
遊歩道の奥から名前を呼ばれ、振り向いてみるとそこには杏と杏寿郎が走ってくるのが見えた。かれんは何故杏と杏寿郎が一緒にいるのかが分からず、脳内が混乱してしまう。息を切らす杏寿郎と杏をかれんは交互に見つめると、杏のいつも通りの様子に安堵した。
「杏がここまで案内してくれて…!かれんさんに会えて良かった…っ」
「本当にごめんなさい…っ。杏が何かしませんでしたか…!?飼い主として、こんなことあってはならないことです…」
「いえ!とても利口で、かれんさんのいる場所に案内して欲しいと伝えたところ、ここまで連れてきてくれました」
「本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません…」
かれんは何度も杏寿郎に頭を下げた。
杏は杏寿郎の足元に隠れて、気まずそうにかれんを上目遣いで見ていた。
「…杏〜〜?もう、一人で勝手に…」
「でも、何故俺のところに杏は来たのだろうか?」
「・・・確かに…」
「「・・・」」
「・・・あ!もしかして!」
「ん!?」
「名刺かもしれません!」
「…名刺??…がどうかしたのか?」
「この間、杏寿郎さんと名刺を交換させていただいて、そのパスケースを杏が咥えていたんです!もしかしたら匂いで、杏寿郎さんがいることが分かったのかも…!」