第14章 聲の向こう〈煉獄杏寿郎〉
そのエリアは犬の立ち入りが許可されているので、犬を連れて散歩をしている人も多く見られた。
すると、そこにコーギー犬を連れた人が通りかかった。
「…!」
杏寿郎はさり気なく飼い主を見たが、かれんではなかった。
少し気落ちしてしまう自分に、杏寿郎はかれんへの気持ちが恋なのだと気付いた。
(今後彼女に会うといっても、他社ではそう機会もないだろう…。宇髄に…相談してみるか…、いやしかし、こんな私情を宇髄に話すのも、少々気恥ずかしいな…)
杏寿郎は悶々としながら、買ったばかりの本のページを捲った。
・・
「杏、ここで食べよっか!」
「ワン!」
かれんと杏はベンチに腰掛けて、作ったサンドイッチと焼き芋をカゴバッグから取り出した。
「杏、はいどうぞ」
杏はきちんとおすわりをして、かれんの手の上の焼き芋をペロリと食べた。
「杏は本当にさつまいもが好きねえ」
もっと食べたい!という目線を、杏はかれんに向ける。かれんはこれでお終いよ?と、杏に残りの焼き芋をあげた。
そして次の瞬間。
かれんがサンドイッチを食べようとした時、突然杏の耳がぴんっと立ち、何を思ったのかその場から駆け出してしまったのだ。
「杏!!どこ行くの!?戻ってきて!!」
杏はかれんの声に見向きもせず、遊歩道を真っ直ぐに駆けていく。
「杏!!!」
杏の姿がどんどん小さくなっていく。
(今までこんなことしないのに…っ!)
かれんはサンドイッチを急いでしまうと、杏の後を追いかけた。
・・
「ワン!」
「!」
杏寿郎が足元に目を向けると、そこには一匹のコーギー犬が大人しく座っていた。首輪をしており、リードがその首元から下がっていた。
(…迷い犬か…?でも首輪もリードもある…。飼い主と逸れてしまったのだろうか…)
杏寿郎は辺りを見回すも、飼い主らしき人は見当たらなかった。
「君の飼い主は…この辺りにいるのか?」
「ワン!」
そのコーギーは杏寿郎に擦り寄り、くんくんと匂いを嗅いでいる。背中を撫でてやると、嬉しそうにその場に伏せた。
「綺麗な毛並みをしているな」
ふわふわと滑らかな手触りに、杏寿郎は綻ぶ。
ふと、撫でていた杏寿郎の手が止まった。