第12章 ●ハマる●
いつもよりワントーン低い硝子の声。
「お前には関係ねぇだろ?」
「関係あるわよ。」
「あぁ?お前、誰に向かって言ってんの?おーい、恋!いるんだろ?出てこいよ。話がある。」
悟、キレてる。
何でだろう?
「やめて!五条。ミサト先輩とどうなってるのか私に教えて。」
硝子が必死に悟を止めている。
「はぁ?お前何言ってんだよ?俺はアイツに話があるんだよ!」
更にキレる悟。
私はゆっくり出て行った。
「悟。」
「恋、お前先輩に何言った?」
「えっ?な、にって……」
悟が何を聞きたいのかわからなかった。
「お前、俺の事、何とも思ってないって言ったの?」
私の目を見つめる六眼。
心臓が早鐘を打っている。
ドクンドクン。
私はあなたが好きなのに。
だけどあなたには彼女がいる。
だから、私はあなたのために。
彼女に嘘をついた。
「は、い。」
「ふーん。そっか。」
バタン
悟はドアを思いっきり閉めて帰って行った。
私はその場で固まってしまった。
「恋、本当にそう言ったの?」
「うん。だってあの人は悟の彼女なんだから。私はあなたの彼氏が好きです、なんて言える訳ないじゃん。」
「それはそうだけど。本心じゃないでしょ?」
硝子に痛いところを突かれた。
「それ、は……本当、こんなに好きにさせられて。私、バカみたい。」
少し、涙が出た。
「恋、アンタって子は。」
「だ、いじょうぶだ…から。ごめんね。もう、帰るね。」
「何かあったら、何でもいいから、いつでもいいから電話して。」
「うん。ありがと。じゃあね。」
硝子の部屋を出て自分の部屋までやって来た。
ドアを開けて中に入ろうとした時、後ろから声が聞こえた。
「お前、俺の事好きだって言ったの嘘だったの?」
「さ、とる?」
振り返ってみたけど誰もいなかった。
「はぁー。遂に幻聴が聞こえるようになったか。」
独り言を言って部屋に入った。