第12章 ●ハマる●
私が何も言えず黙っていると、先輩が話し始めた。
「ごめんね。私と悟は3ヶ月前から付き合ってるの。だから、人の男に手出すのやめてくれる?」
きつい口調でそう言うと、先輩は口角を上げた。
3ヶ月前?
付き合ってる?
「えっ?あ、あの、私は、その…」
あまりにも動揺して何も言い返せなかった。
「フフッ。私たち、3ヶ月くらい前に偶然再開したんだけどね。悟ったらガッついちゃって。いきなり押し倒してくるんだもん。それから何となく付き合いはじめたの。」
先輩はベラベラと喋ってくれた。
ガッついちゃったんだ。
「そう……なんですか。」
「ええ。この前会った時に悟の様子がおかしかったでしょ?いきなりあなたの手引っ張ってどっかいっちゃうし。だから、もしかしてあなたが勘違いとかしちゃってたらいけないなぁと思ってね。」
よく喋る女。
チクショー、綺麗だな。
こんな時でも見惚れてしまう美しさ。
「私、悟の事なんて何とも思ってませんから。大丈夫ですよ。お気になさらず。どうぞどうぞ。末永くお付き合いくださいませ。」
そう言ってその場から逃げるように去った。
消えてしまいたくなった。
一生懸命走って寮へ戻る。
ロビーへ入ると、硝子がいた。
「どうしたの?恋。」
「ううん。ぜんっぜん大丈夫!元気、元気。」
「何言ってんの?アンタ、顔真っ青よ。」
「大した事ないの。その…ガッついて押して倒したって…私はその、何もしてない。だからねっ?大丈夫…うん、大丈夫。ハハッ。」
無理矢理笑った。
「恋、何言ってるの?」
「さっきあの女が言ってた。」
「恋、取りあえず私の部屋においで。コーヒーでも飲もう。」
何だかよくわからないうちに硝子の部屋へ連れて行かれた。