第9章 醒める
男の鎖が俺に向かってくる。
だが、俺にそんなもの通用しない。
「代々伝わる相伝の術式のメリットはあらかじめ先代の築いた術式の取説があること。デメリットは術式の情報が漏れやすいこと。アンタ御三家、禪院家の人間だろ?蒼も赫も無下限呪術のことはよく知ってるわけだ。だがコレは五条家の中でもごく一部の人間しか知らない。」
「虚式 茈」
さすがにコレを食らって無事ではいられないだろう。
男は左腕を失っていた。
「いつもの俺ならトンズラこいた。だが目の前には覚醒した無下限呪術の使い手。恐らく現代最強と成った術師。否 捩じ伏せてみたくなった。俺を否定した禪院家、呪術界その頂点を。自分を肯定するためにいつもの自分を曲げちまった。その時点で負けていた。自尊心は捨てたろ。」
男は意味のわからない事をブツブツ呟いていた。
「何故恋を?」
「逃げた女の代わりにしようと思った。」
「アイツは俺のだ。」
「だろうな。」
「最期に言い残す事はあるか?」
俺にだって人間らしいところはある。
「2、3年もしたら俺の子供が禪院家に売られる。好きにしろ。」
「あんたの名は?」
「伏黒甚爾」
俺は勝った。
急いで恋のところへ戻ると、そこに恋の姿はなかった。
「恋!どこ?」
すると、携帯が鳴った。
「恋!」
恋からだった。
「もしもし、五条?私の事なら心配いらないから。私は無事よ。ちょっと家の者が心配して迎えに来ただけだから。安心してね。」
恋は一方的に言って電話を切った。
「安心しろって言われてもなぁ。」