第8章 焦る
「ねえ、五条、苦しいっ。」
閉じ込められて息苦しくなった。
「悪い大丈夫か?」
私の顔を覗き込む。
サングラスがズレて瞳が見える。
やばい、ドキドキしちゃう。
そんなに見つめないで。
「大丈夫、だから。」
そう言ってもまだ見つめてる。
「キスしていい?」
「ダメ。」
「どして?」
「どしても。」
「いじわるぅ。」
「どっちが。」
その時夏油の声がした。
「悟、恋、おいで。ジュース買ったよー」
「はーい。」
五条の腕からするりと抜け、ベーっと舌を出した。
「ジュースジュース、と。」
呪文のように唱えながら五条を置き去りにして走って行った。
「はい、恋。炭酸で良かった?」
夏油がジュースを渡してくれた。
理子ちゃんと黒井さんは日陰で休んでいるようだ。
「ありがと、夏油。」
「あれ?悟は?」
「さあ?ムカつくから置いてきた。」
「フッ。あまりいじめないであげてくれよ。」
「夏油は優しいね。」
「そうかな?私だって男だよ。」
そう言うと夏油は私の手を握ってきた。
「げ、とう?」
びっくりして夏油を見上げた。
「フフッ、冗談だよ。ごめんね。」
そして手は離された。
「夏油が冗談なんてびっくりした。」
「たまにはね。」
その時の夏油の笑顔に何か怖いものを感じた気がした。
次の日、私たちは高専に戻った。
建人と灰原は別ルートで遅れて帰ってくる。
五条はやっと術式を解いた。
その瞬間だった。
トスッ!
「えっ?」
「アンタ、どっかで会ったか?」
「気にすんな、俺も苦手だ。男の名前覚えんのは。」
五条が、見知らぬ男と話してる。
てゆーか、何?
トスッて。
えっ?ご、じょう?
五条は見知らぬ男に剣で刺されていた。
「五条!」
叫び声をあげる私。
「おー、お前か?藍の娘は。」
五条を刺した男が言った。
そして次の瞬間、私は男に捕らわれた。
「恋!」
五条が私を呼ぶ。
「あんた、誰?」
男は左腕を私の首に回していた。
「その気の強そうなところ、母親にそっくりだな。」
「質問に答えて。あんた、誰?」
「昔お前の母親と付き合ってたんだよ。娘がここにいるって知った時は驚いた。」