第6章 ●訝る(七海の場合)●
必死に私の名を呼ぶ恋。
愛しくてたまらない。
「はぁ、はぁっ、恋、キス、して。」
腰の動きを緩めると、彼女が後ろを向いた。
そして、近づくといやらしく舌を出してきた。
とても興奮して、腰のスピードを早めた。
「アァッ、ヤダァ、らめぇっ。」
叫ぶ彼女。
「あぁ、私も、もうだめです。」
終わってから彼女を抱きしめて謝った。
よくよく見ると、彼女の肩には歯形がついていた。
痛いと言った彼女を思い出す。
なんて事をしてしまったのだろう。
彼女は私の腕の中で眠った。
愛しくて、彼女の頭にキスをした。
何度も、何度も。
翌朝彼女を見送り、朝食を食べようとした時誰かがドアをノックした。
ガチャ
ドアを開けると、そこには今1番会いたくない男の姿。
「五条さん、何ですか?朝っぱらから。」
「あれっ?鯉は?昨日のマフィンのお礼言いに来たんだけど。」
「教室ですよ。もうすぐ授業始まりますよ。」
そう言うと五条さんは慌てて走って行った。
マフィンのお礼?
嘘くさい。
彼女が用意してくれた朝食を食べる。
相変わらず美味い。
スクランブルエッグ。
シーザーサラダ。
ロールパン。
どれも私の好みの物だ。
彼女と五条さんの間に何かあると勘繰った自分が情けなくなった。
夕方彼女から電話があり、4人で食事に行くと言う。
五条さんはいるけど、硝子さんに夏油さんもいるわけだから流石に何もないでしょう。
そう思った。
「そうですか。私も今日は灰原と稽古の約束がありますので。」
「そっかぁ、わかった。じゃあ、また明日。」
「はい、また明日。」
電話を切って、灰原にかけた。
「もしもし?暇なら稽古でもしませんか?」
灰原との約束など本当はなかった。
何故、そんな嘘をついたのか。
まっすぐ自分のところへ帰ってきて欲しいと言えばよかっただろうか。
わからない。
私だけの物にしたかった。
私だけの女に。