第5章 訝る
「何かあったら携帯に。いつでも繋がるようにしておきます。」
「心配しすぎよ、建人。」
靴を履いてドアノブに手をかけたところで建人がこちらへ振り返った。
そしてキスをしてきた。
建人が人前でキスするなんて初めてだった。
「では、行ってきます。」
「は、はい。行ってらっしゃい。」
少し戸惑ったまま見送った。
ガチャ
ドアを閉めた。
どんな顔して五条を見ればいいんだろう?
意を決して後ろを振り向くと五条は座ってマフィンを食べていた。
サングラスのせいでどこを見ているかわからない。
赤い鼻を見て思い出した。
「五条、軟膏あるから鼻に塗っとけば?」
薬箱から軟膏を出して五条に手渡そうとする。
「塗ってよ。」
「何で?」
「だっていまマフィン食べてるし。」
「もぉ、わかったよ。」
仕方なく膝を付いて軟膏を指にだし、五条の鼻に近づける。
ゆっくりと塗り塗りしてると、突然彼の顔がこちらに近づく。
「もー、あんなの見せられたら我慢できないじやん。」
ち、近い。
そしてゆっくり近づく形のいい唇が、私の唇に重なった。
びっくりしすぎて目を閉じるのも息をする事さえも、忘れてしまった。
「おーい、どした?恋、大丈夫か?」
気づくと唇は離れていて、心配そうな五条の顔が目の前にあった。
「いま、な、にしたの?」
あまりにも突然の事に頭が追いつかない。
「えーっ、酷いなぁ。俺たちの初キッスなのに覚えてないのぉ?」
大袈裟に体をよじる五条。
「えっ?だ、だって。」
未だ放心状態の私。
「しょうがない。いきなりだったしね。今度はちゃんとするから。」
今度は左手を私の後頭部へと回して自分の方へと引き寄せ、再び唇を重ねてきた。
五条の唇、柔らかい。
ただのキスなのに何故か気持ち良くなっていた。
すると、私の携帯が鳴った。
我に返った私は五条から離れ、電話に出た。
「もしもし、建人?どうしたの?」
「五条さん、帰りましたか?」
「あ、今帰るところよ」
「そうですか。わかりました。では」
そう言ってすぐに切れた。