第5章 訝る
建人と五条を部屋に上げ、マフィンを作った。
生地を型に流し込んでオーブンに入れる。
焼き上がりの時間までシンクに溜まった洗い物を片付ける。
スポンジを取って洗剤をつけようとしたら、
「手伝いますよ。」
そう言って建人の大きな手が私の手からスポンジを奪った。
「ありがと、建人。」
オーブンを覗くといい感じに膨らみ始めていた。
「五条、これ見て。マフィン膨らんできてる。」
「マジ?どれどれ俺の可愛いマフィンちゃん見せて。」
五条はまた子供のようにはしゃぎ始めた。
「あんまり顔近づけるとヤケドするよ。」
注意したけど遅かった。
「あつっ!」
鼻を押さえる五条。
「もうっ!何やってんのよ。見せて?」
ゆっくりと五条が手を離し、私の方へ顔を近づけてくる。
「どお?」
だから近いって…
「鼻、赤くなってる。冷やさなきゃ。」
すぐに彼から離れて冷凍庫から保冷剤を出し、ハンドタオルにくるんで渡す。
「ほら、これで冷やして。」
「サンキュー、あー、つめてー。」
「まったく。何をやってるんですか?五条さん。」
建人が呆れた様子で見ていた。
「うーん!美味い!」
マフィンを頬張りながら五条が叫ぶ。
鼻はまだ赤いままだ。
「五条さん、静かに食べられないんですか?」
コーヒーを飲みながら建人がたしなめる。
どっちが先輩だかわからない。
「もぉ、七海は口うるさいなぁ。」
拗ねる五条。
「五条、よかったらこれおみやげね。」
残りのマフィンを紙袋に詰めて渡した。
「サンキュー!悪いね。」
すると、建人の携帯が鳴った。
「はい。あ、先生。お疲れ様です。はい、あぁ、はいそうです。行けます。わかりました。では。」
話す様子で任務に呼び出された事がわかる。
「すみません。任務です。」
「うん。わかってる。気をつけてね。」
「五条さん、あなたもそろそろ帰ってください。」
建人が五条を睨みつけた。
当の本人はまだマフィンを食べている。
「これ食べたら帰るから。七海、気をつけてな。」
口をモゴモゴさせながら手を振る五条。