第1章 始まる
あの時もタバコの香りがした。
抱きしめられた時、フワッと香った。
初めてのキスもタバコの味だった。
「母さまの事まだ忘れられないの?」
「……」
「ねぇ?答えてよ。」
「和くん?」
「おーい、大丈夫?着いたよ。」
不意に家入の声が聞こえて我に返った。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
彼女の肩にもたれかかっていた。
「ご、ごめん。今朝、京都から着いたばっかりで疲れてて。」
慌てて体を起こし謝る。
「いいのよ。気にしないで。」
家入はそう言ってフッと笑った。
微かにタバコの香りがした。
「あーあ、ダルいなぁー。もう何でこんな朝っぱらから祓わなきゃいけないんだよ。別に大した呪霊でもないじゃーん。」
「悟、わがままを言ってはいけないよ。私たちにとっては大した事なくても非術師の人たちにとっては厄介な物なんだからね」
盛大なため息をついて駄々を捏ねる五条を夏油がいさめる。
それを横目で見てニヤつきながらタバコをふかす家入。
いい関係だと思った。
「ねえ、恋って呼んでいい?私の事は硝子でいいから。」
「いいよ、硝子」
「じゃあ、俺は悟で。」
「私は傑で。」
女同士の会話を聞いていた五条と夏油が口を挟んだ。
「こいつらは五条と夏油でいいから。」
そう言って硝子はケラケラと笑った。
「じゃ、そういう事で。」
私がそう言うと、男二人はつまらなそうな顔をしたが、硝子に睨まれて何も言い返さなかった。