第36章 ●護る●
「傑達の行方は掴めていない。」
学長が悔しそうに言った。
「だろうね。アイツがボロ出すわけないよ。」
「恋の様子は?」
「硝子が言うには睡眠薬らしい。今から色々検査するって。」
「俺も後で見に行く。」
「学長、傑は僕の事好きなのかな?」
「そうだろうな。」
「もし、目の前に現れたら殺すけどいい?」
「ああ、仕方ないだろう。」
処置室へ向かうと部屋の前に七海と猪野がいた。
「五条さん、恋ちゃんの具合は?」
青白い顔をした猪野が言った。
コイツは学生の頃から恋に惚れてる。
「睡眠薬で眠らされていただけだ。特に目立った傷もなさそうだよ。」
まさかキスマークがついてるなんて言えるわけない。
安心した様子の猪野の側で眉間に皺を寄せている七海。
薄々勘づいてるんだろうな。
そうだ、コイツは恋の事が嫌いで別れたわけじゃないんだった。
ある意味コイツも被害者か。
だが、恋敵の気持ちを思いやる余裕なんて今の僕にはない。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、七海は何も言わなかった。
「おい五条!」
そこへ2年の担任、日下部がやって来た。
「何?」
「恋ちゃんは?」
恋ちゃんって呼ぶなよ。
気持ち悪りぃ。
コイツは隙あらば女の職員にちょっかい出してる。
女達は陰でコイツの事をセクハラ親父と呼んでいるそうだ。
もちろん恋にもちょっかいを出してくる。
まあ、恋の場合は上手くあしらってるけど。
「硝子が治療中だ。」
「どこか怪我してるのか?」
「いや、外傷は無さそうだった。」
「そうか。」
飴を舐める日下部。
「飴ちょうだい。」
「ほらよ。」
飴を貰い舐める。
糖分補給しないとな。
今ここにいる男はみんな恋に惚れてるんだよな。
何気にモテるよなあ。
小さくて可愛くて強い女だからな。
そうそういないよな、こんないい女。