第35章 ●嬲る(夢主の場合)●
「架空の取引話を持ちかけて金を騙し取っただけだよ。それで彼は泣く泣く龍家へ戻ったと言うわけ。」
「私と悟を戻すためにそこまで?」
「君の幸せのためでもある。良かっただろ?これで君は自由の身だ。」
「ウチの裏切り者は誰?」
「八木だよ。彼女の両親は君の非術師の母親を守って亡くなったそうだね。」
「そう聞いてる。呪詛師に狙われた母を守ってくれたって。だから一人娘の彼女には私の曽祖母が援助して今では立派な術師になったって……」
「非術師の身代わりに両親が死んだんだ。それと、彼女は子供の頃から和くんに思いを寄せていたそうだ。だけど彼は振り向いてくれず逃げた。やっと見つけた時には結婚して子供まで……それで私のところへ来たんだよ。」
「何よ、それ。そんな事ぐらいで呪詛師になるんなら私だってとっくに呪詛師になってるわよ。それより何で悟に愛されてる私じゃないとダメなの?」
「悟が好きだからだよ。だから悟が好きなものは私も好きなんだ。」
「うえっ、気色悪っ……」
「酷いなあ、心配しなくても私にそういう趣味はないよ。ほら、もう諦めてこっちにおいで可愛い恋。」
そう言って手を広げる夏油。
「誰が行くか、クソ男!」
身勝手な理屈を捏ね回す夏油にキレた。
立ち上がって夏油を蹴って怯んだところを殴り、最後は関節技で肩を抜いた。
「夏油様!」
どこに隠れていたのか呪詛師が一人出てきた。
「イタタタタタ!痛いじゃないか。相変わらず関節技が上手いね、アハハ。」
笑った口元から血が流れてる。
「それはどうも。」
「照れてるのかい?可愛いね。」
歯を含めて色んなところが折れてるのに懲りない男。
「夏油様、治療させてください。」
呪詛師が言った。
「そうだね。口から血が出ていたのではキスも出来ないからね。」
夏油が私を見ながら言った。
「はい。」
呪詛師は私を睨みつけた。