第34章 嬲る
「俺が不甲斐ないばっかりに……」
落ち込む猪野くん。
彼が密かに恋に想いを寄せていた事には以前から気がついていた。
守れなかった事で落ち込んでいるのだろう。
学長の意向で龍家にはまだ知らせていない。
和之進さんが帰った今、龍家がどう動くか私でも予想がつかない。
それに、恋が知らせる事を望んでいない可能性が高いから。
前回の事も恋の強い希望で知らせていない。
でも、あの大ババ様の事だ。
何処かから情報を入手している事も十分考えられる。
とにかく事態が動き出すまではどこにも知られないよう、学長の判断で知っている人間を最小限に留めた。
それから約3時間後、高専に電話がかかってきた。
「はい、呪術高専。」
「あ、その声は夜蛾先生ですか?」
「傑か?」
「はい、お久しぶりですね。悟いますか?まあ、どうせスピーカーでみんな聞いてるんでしょうけど。」
「おい!傑、恋はどこだ?」
「悟、久しぶりだね。どうだい?恋を取り戻した感想は。手伝ってあげたんだからお礼の言葉くらい欲しいね。」
「お前に手伝ってもらったからじゃなく、なるべくしてなったんだよ。」
「君もなかなか言うねえ。」
「恋!僕だよ!そこにいるの!?」
大声で叫ぶ五条さん。
「悟、私は大丈夫だから落ち着いて。」
恋の声が聞こえた。
「恋!すぐ助けに行くから、頑張れよ。」
「うん。ありがと、悟。」
元気そうな声だ。
「心配しなくても恋は元気だよ、悟。元気が良すぎて肩は脱臼させられるわ、指の骨はおられるわ、歯も何本かとあばらも数本やってくれたよ。」
「ごめんね、夏油。」
恋が謝る声が聞こえた。