第34章 嬲る
「ええ、振り撒いてます。」
「どうした?そんな暗い顔して。お前も幸せ絶頂だろ?高山、美人だしな。」
「え、ええ。幸せですよ。涼子は美人ですから。」
「言っとくけどウチの恋は超可愛いんだからな。」
「知ってます。」
ええ、もちろん知っていますとも。
「知ってるならいいか。じゃあね!」
そう言うと五条さんはスキップしながら保健室の方へ進んで行った。
この時、五条さんに夏油の事を伝えれば未来は違うものになったかもしれない。
良い方になるか、もっと悪い方になるかそれはわからないが。
翌日、私たちを大きな闇が飲み込んだ。
とてつもなく大きな闇が。
その日恋は討伐任務の為、猪野くんと一緒に東北のとある村へ出かけていた。
五条さんは九州へ私は四国へそれぞれ討伐任務に派遣された。
思えばこれも謀られていたのだ。
何者かが上層部へと手を回し、五条さんと私を恋から遠ざけ、簡単に助けに行けないようにしたのだ。
報告を受けた時、私は目の前が真っ暗になった。
「七海さん?聞いてますか?」
「すみません、伊地知君。もう一度お願いします。」
「龍恋1級術師が襲撃され、連れ去られたもようです。私も今は五条さんと九州なので詳しい事はまだです。今から五条さんと東京へ戻ります。七海さんも出来る限り早くお願いします。」
「五条さんの様子は?」
「当然ですが恐ろしいほどにキレてます。」
「わかりました。気をつけて。」
高専に戻ると、猪野くんが駆け寄ってきた。
「七海さん、犯人が高専に連絡するから待っているよう五条に伝えろと言ったんです。」
「そうですか、五条さんは?」
「みなさん、学長のところに集まってます。」
学長室に行くと、顔面蒼白の五条さんと家入さんもいた。
「猪野、七海にも詳しい状況を話してやれ。」
「はい、学長。」