第34章 嬲る
「あのお方に伝えます。全てはあのお方次第なので私の口からは何とも申し上げられません。では、これで。」
言い終わると同時に涼子の前に車が止まった。
運転しているのは着ぐるみを被った人物だ。
素性を知られたくないのだろう。
助手席に涼子が乗り込むと車は勢いよく発進し、闇に消えて行った。
真っ暗な空を見上げると涙が出てきた。
恋を手放してしまった。
私が唯一愛した女性を。
願うのはただ、あなたの幸せばかり。
この3ヶ月、本当に幸せでした。
あなたと愛しあえた日々は忘れません。
それだけで私は生きていく事が出来ます。
ありがとう、恋。
愛しています。
今までも、そしてこれからも。
「私とあなたが付き合っていると恋さんに思わせなくてはいけません。今日、彼女はランチに行くそうですから私達も行きましょう。」
昨日の昼間、涼子に言われて気の進まぬままにランチへと出かけた。
言っていた通り、恋は家入さんと楽しそうに話しながら食事をしていた。
私たちの方はというと、まるでたまたま相席になった他人の様にただ黙々と食事をするだけだった。
これで本当に付き合っている様に見えるのだろうか。
程なくして1人で高専に戻ると五条さんを見かけた。
五条さんはとても上機嫌だ。
恋が手元に戻ってきたからだろう。
鼻歌混じりで高専内を闊歩している。
「よう!七海、元気?」
「五条さん、こんにちは。元気ですが、あなたはまた随分と楽しそうですね。」
「そう?幸せオーラ振り撒いちゃってた?」