第30章 ●慮る●
「何で食べないの?」
「食べようと思ったんだけど、昨日おはぎ食べすぎたから胃が受け付けない。」
「どんだけおはぎ食ったんだよ。」
「いっぱい。」
「バカだな。」
「だって……」
唇を尖らせる恋。
止めろよ、キスしたくなるだろ?
「おばあちゃん、恋が幸せならそれでいいんだって。」
「それは嘘。あの鬼ババア、昔から和くん命なんだから。和くんが帰ってきて嬉しくて私の事なんてどうでもいいのよ。ほんっと、ムカつく!」
「よしよし。」
頭を撫でてやった。
「さわんな、クズ!」
「クズは酷くない?」
「私の事ずっと騙してたくせに。」
下唇を噛む恋。
「おい、止めろ。」
「………っ嫌い………大っ嫌い!」
「お前、血が出てる。」
下唇を噛みすぎたせいで血が滲んでいる。
慌ててテーブルの上にあるティッシュを取って傷口を押さえる。
「止めて!」
僕の手を振り解こうとする恋。
「やめないよ、血でてるし。おとなしくしてろ。」
しばらく押さえてゆっくりと離してみる。
「痛い。」
「思いっきり噛むからだよ。よし、血は止まったな。大した事なさそうだよ。舐めて消毒してあげようか?」
「私の事、嫌いなくせに。」
目をうるうるさせる恋。
「嫌いじゃない、好きだよ。」
「じゃあ何であんなに浮気したの?」
「そ、それは……魔がさしたというかなんというか。」
「……っ、おかしいとは思ってたけど認めたくなくて気づかないふりしてた。」
「ごめん。許して。」
「むりぃ。」
即答する恋。
声が震えてた。
「泣いちゃいそう?」
「泣かない。アンタの前では絶対泣かない。」
「何で?」
「泣いたら抱きしめてきてその後強引にキスされて体に力入んなくなって……結局、なし崩し的にエッチな事されるから。」
その時、インターホンが鳴った。
「あっ、硝子だ。」
慌てて玄関へ走る恋。