第30章 ●慮る●
「きな粉ついてる。」
「えっ?どこ?」
「ここ。」
そう言いながら指で口もとを拭ってやる。
「取れたよ。」
「ありがと。」
舐めるのはやめといてあげた。
泣き顔は見たくないから。
「さて、と。僕はそろそろ仕事に行かなきゃ。仕事っていうか会議だけど。」
「行ってらっしゃい。」
「何か素っ気ないね。」
「気のせいじゃない?」
そう言ってまたおはぎを頬張る恋。
「食べ過ぎて腹壊すなよ。」
「えへっ。」
「可愛いね。」
「早く行かないと学長キレるよ。」
「ヤバッ、じゃあな。」
おはぎを頬張る恋のほっぺにチュッとキスをした。
「ちょっ……何するの!」
「ほっぺにあんこついてた。」
去り際にそう言ったけど、それは嘘。
その日の夜、七海を呼び出した。
「お前、自分が何やったかわかってんだろうな。」
「はい……わかっています。」
暗い顔で頭を下げる七海。
本当は殴るつもりだったけど、殴る気が失せた。
「返してもらうよ。」
そう言ってから七海に背を向け歩き始めた。
「五条さん!恋の事、頼みます。」
後ろから七海が叫んだ。
言われなくてもわかってるよ。
その足で恋のマンションへ行った。
六眼で恋の部屋の窓を見る。
灯りが消えてる。
おはぎ食って腹一杯になって寝ちゃったんだな。
そのまま自分の家に帰った。
次の日、任務のため伊地知と出かけた。
「伊地知、お前知ってたの?恋が七海にフラれたこと。」
無事に任務を終え、高専に帰る車の中で聞いた。
「ええっとー、そう言えば飲んでる時に言ってたような……でも、家入さんがここで聞いた話は誰にも言うなって。」
「他にもあんの?聞いた事。」
「へっ!?い、いえ、何もありませんよ。」
「言わないと硝子にチクるよ。お前が風俗の女の子に貢いでた事。」