第27章 決する(五条の場合)
「じっとしててね。」
唇の横についた粉をペロッと舐めとる。
ついでに唇も舐めた。
そして左手を恋の腰に、右手を後頭部へと回した。
ギュッと抱きしめる。
久しぶりに感じる愛しい人の体温、感触、香り。
「さ、とる?」
戸惑ってる様子の恋。
「人肌恋しい季節だから。」
「秋だからね。でも……」
「恋。」
慈しみを込めて名前を呼んだ。
「離……して。」
そう言われ、ゆっくりと体を離す。
「恋?」
目の前にいる愛しい人は目に一杯涙を溜め、こぼさないよう必死で耐えていた。
「悟……バカ。」
「おめめ、うるうるしちゃってて可愛い。」
「バカ……男。私、可愛いなんて言われる年じゃない。」
遂に堪えきれず涙が頬を伝う。
あーあ、泣いちゃった。
「よしよし、泣かないで。僕にとってはいつまでも可愛い恋だよ。」
頭を撫でてやる。
こうされるの好きだろ?
「っ、いじわるぅ……」
泣きながら話す恋。
「何で泣いちゃったの?そんなに僕がいや?」
無言で頷く恋。
「えーっ、傷つくなぁ。舐め回したいのに。」
「っ、何、なの?……変態?」
「変態は酷いよ。」
「だって。」
その時、こっちに向かって誰かが走ってくる気配を感じた。
サッと僕から離れる恋。
離れるの早っ。
「恋さーん!どこですかー?任務が入りましたよー!」
見慣れない女だった。
「あっ、高山だ。はーい!今、行きまーす!」
「誰?」
「最近入った補助監督の高山涼子よ!挨拶されたでしょ?もう忘れちゃったの?」
「そういえばそんな事があったような……」
最近、恋の事ばっかり考えてたからそれ以外の事は頭に入ってなかった。
「じゃあね、悟。」
さっきまで泣いていた恋はケロッとして弁当箱を抱え、走って行った。
「女ってわかんねえ。」
それから1週間、2週間、3週間経っても恋が弁当を作ってくれる事はなかった。