第26章 ●決する●
コーヒーを飲んで頭の中を整理した。
「あの、コーヒー飲んでからでもいいので着替えてもらってもいいですか?」
建人は隣に座ってそう言うと、私から目を逸らした。
「あ、ごめん。パーカーすぐ返すね。」
「いえ、そういう意味ではなくて。」
「ん?」
何が言いたいのかわからない。
すると、建人が私の方に体を向けた。
「可愛いからです。」
見つめながら言った。
「建人?」
「その格好でいられると……その、可愛すぎて。」
「えっ?このダボダボが?」
「はい……とてもそそります。」
「建人………」
「すみません、朝から。」
「あっ?今何時?」
「5時です。仕事は何時からですか?」
「今日の授業は午後からだから11時ごろに行けば大丈夫。」
「そうですか。では、もう少しゆっくりできますね。」
「うん。」
「五条さん、あれから何か言って来ましたか?」
「ううん、あの後も同じような内容のメッセージばかりだった。」
マグカップをテーブルに置く。
すると、それを見計らったかのように抱きしめられた。
「あの、キスしてもいいですか?」
「そういうところが、建人らしくて……」
好きって言いかけたけどやめた。
だって、まだ悟と別れてないし。
10年という年月は伊達じゃない。
見切りをつける覚悟は出来たけど、まだそれを伝える勇気が持てない。
それなのに、建人とこうしている私。
いけない事だとわかっている。
だけどこの愛を前にして、もう目を逸らす事は出来なかった。
何年か前にも同じような事があった。
その時は目を逸らし、気づかないふりをした。
その時の私は強かで、とても愚かな女だった。
「ありがとう、建人。あなたがいたから私は生きてこれた。」
本当に、心からそう思う。
建人の顔を見る。
そして、キスを受け入れる。
優しいキス。
慈しむように、愛が注がれてゆく。
心と体に染み入るように。
このままではいけない。
早くケリをつけないと。
この人のためにも。