第3章 ●愛する●
彼女は何事もなかったかの様にそそくさとどこかへ向かった。
あっちは確かバスルームがあるハズだ。
私はいてもたっても居られず、和之進さんの部屋へと入った。
「和之進さん。」
部屋へ入ると、上半身裸の彼はベッドのヘリに座って両肘を膝の上に付き、下を向いていた。
「建人?どうした?」
彼は不思議そうな顔でこちらを見ていた。
改めて部屋をよくみると、ベッドはぐちゃぐちゃになっていて、使った後のティッシュが丸めてその辺りに捨てられていた。
「あんた、恋に何をしたんです?」
怒りで手が震えたのでギュッと握り拳を作った。
「な、何も……わ、悪かった。」
彼は初めは否定したがすぐに認めた。
認めてほしくはなかった。
否定して欲しかった。
「どう言うことか説明してもらえますか?」
私は腕を組んだ。
すると、彼はことの顛末を話してくれた。
「要するに、酔っ払って藍さんと間違えたと?」
私は初めて人を殴りたいと思った。
「ああ、目が覚めて驚いたよ。」
彼はすっかり項垂れている。
「知ってました?恋は子供の頃からあなたが好きだったんですよ。」
それを聞いた彼は驚きの表情を見せた。
「まさか、あいつが?俺の事を?俺はてっきりあいつはお前が好きなんだと思ってた。すまない、全部俺が悪い。建人、助けてくれ頼むこの通りだ。」
和之進さんは床に座り込み土下座した。
「何をどう助けるんです?」
「あいつを。恋の事を助けてやってほしいんだ。あいつを支えてやって欲しい。お前にしか頼めない。」
「もちろん、そんな事は言われなくたってわかってますけど、そこまで言うなら条件があります。今後一切、彼女に触れないでいただきたい。そして、彼女に嫌われてください。」
「わかった。そうするよ。」
その後、彼女はまた私の腕の中で泣いた。
このまま閉じ込めてしまいたい衝動に駆られた。
だが、グッと堪える。
だけど、さすがにさっきの事がある。
だからあの男と同じ事はしたくない。