第23章 陰る
「恵?」
「恋!?こんなとこで何してんの?」
「恵こそ、何してるの?」
「ちょっと……稽古してた。」
中学生になった恵は父親によく似たイケメンに成長した。
昔の悟を彷彿とさせる。
だけど、悟とは全然違う。
この子はとてもいい子だから。
夕焼けを見ながら石段に座り、泣きながら恵に話を聞いてもらっていると、夕陽を背にして建人が走って来た。
討伐帰りだからかメガネをかけている。
「建人!」
思わず抱きつく。
フワッとと香る懐かしい香り。
ああ、建人の匂いだ。
恵に別れを告げ、建人と手を繋いで彼の自宅へ向かった。
「はい、どうぞ。」
コーヒーの入ったマグカップを渡される。
「ありがとう、建人。」
硝子の言葉を思い出す。
「アイツはアンタに頼られることだけが唯一、生きる道なの。」
その張本人が今、自分の横にいると思うと急に恥ずかしくなった。
「大丈夫ですか?」
マグカップをテーブルに置き、建人が私の方を見た。
「大丈夫ではないかな。何か、バカらしくなっちゃって。」
そう言ってからコーヒーをひと口飲んだ。
「あなたは、何があっても何をされても五条さんが好きだったんじゃないんですか?」
「そうだった。そのはずだったけど、アイツ言い訳に、マミちゃんとヤッたから私の良さが解ったって言ったのよっ!」
少し興奮気味に話してしまった。
「そうですか、五条さんはそんな事を。」
「情けない……人が色々悩んでる時に、何であんなバカを好きになっちゃったんだろう……何だか疲れちゃった。」
「何か悩んでるんですか?」
「うん……今後の事。」
「今後の事って結婚、ですか?」
「うん。私と悟は結婚できないから。あの五条悟よ?私みたいな家の者が嫁げるわけないでしょ。」
「でも、あの五条さんですよ?彼の力があれば何とかなるんじゃ…」
「五条家は何とかなっても他の御三家が黙ってないでしょ?それに、大婆様にも言われたし。五条悟とは遊ぶだけにしとけって。」