第2章 ●忘れる●
和くんがおかしくなって2ヶ月が過ぎた頃、私は街でバッタリ、彼に出会した。
「和くん…」
彼の隣には綺麗な女の人がいた。
その人には見覚えがあった。
「恋、違うんだ。これは、その…何ていうか。」
和くんはあきらかに狼狽していた。
「何焦ってんのよ、和。別にいいじゃない。私たちってそういう関係なの。」
その女が言った。
「マナ先生、旦那いるでしょ?」
その女は私の担任の先生だった。
そして彼女の旦那は3年生の担任、柿座先生だ。
「あぁ、アレね。本当はさっさと別れたいんだけど、なかなか別れてくれないのよ。私の本命はコッチよ。」
そう言って先生は和くんの腕をギュッと掴んだ。
和くんは黙ったままだった。
今日の出来事を建人に報告した。
「大丈夫ですか?」
建人はいつも私の事を心配してくれる。
本当にいいヤツだ。
それから数週間後、建人がまた京都にやって来たので2人で流行りのカフェへ行った時の事。
「おいっ!龍。」
テラス席に座っていると、大きな声で苗字を呼ばれた。
声のする方を見るとそこには私の担任の旦那、柿座先生が仁王立ちしていた。
「柿座先生?どうしたんですか?」
「ちょっとこっちへ来てくれるか?話がある。」
そう言うと先生はビルとビルの隙間に私を連れて行った。
「なんです?いきなり。先生は3年の担任でしょ?私に何の用が、えっ?い、痛い。」
先生は私の肩を思いっきり掴んだ。
「おい、お前の保護者は今どこにいる?」
先生は鋭い眼光で睨みつけている。
「保護者?えっと、さあ?家にいるんじゃないかと思いますけど、ちょっと、痛いです。」
肩に置かれた手は一向に力を緩める気配がなく、このまま地面の中に沈みそうな気がした。
「お前、何も聞いてないのか?アイツは俺の妻をさらって逃げたんだぞ?」
その言葉で肩の痛みは頭から消えた。
「う…そ。いつですか?」
「今朝になっても妻が帰らないから電話したんだ。そうしたら、あの男と一緒に遠くへ行くっていわれたんだよ!」
「おいっ!何してるんだ?」
その時、建人の叫ぶ声が聞こえた。
「建人、私は大丈夫だから。」