第2章 ●忘れる●
「建人に…バレたかな。」
そんな心配をしつつ、シャワーを浴びた。
和くんの匂いを消すために。
お風呂から上がり、私服を着た。
もちろん、なるべく肌を見せないようブラウスのボタンは上まで留めた。
「お待たせ、建人。、」
客間の座敷に行くと健人は正座してお茶を啜っていた。
「…その服、よくお似合いです。」
建人は落ち着いた様子だ。
バレてないかな?
「あ、ありがと。あっ、そうだ!美味しい和菓子頂いたの。持ってくるから待ってて。」
くるっと回って部屋を出ようとしたその時だった。
「後ろ…ついてます。キス…マーク。」
「えっ?う、うそ?どこ?」
「首のところ。」
「見えない、どうしよ。」
「和之進さんですか?それつけたの。」
「…」
「そうですか。わかりました。絆創膏持ってきて下さい。貼ってあげます。」
「ありがと、建人。」
建人に絆創膏を貼ってもらう。
まさかこんな所にまでつけられているとは思わなかった。
「大丈夫ですか?」
絆創膏を貼りながら建人が聞く。
「…どうして?」
建人には全て見透かされている様な気がした。
「震えているから。」
自分でも気づかない内に涙がこぼれた。
「建人…わた、し。」
「いいんです。何も言わなくて。」
そう言うと建人が後ろから抱きしめてくれた。
私はまた建人の前で泣きわめいた。
そしてその日を境に和くんが壊れた。
毎日深夜になるまで家に帰らず、帰ったと思えば酷く酔っ払っている。
使用人の話では女性関係もすごく派手になっているらしかった。
「和くん、一体どうしちゃったの?」
「恋、ごめん。許してくれよぉ。ごめんよぉ。」
和くんはあれ以来ずっと謝ってばっかりだった。
私はもう何も言う気にならないほど呆れていた。
私の好きな和くんはもう、そこには居なかった。
「だからさぁ、和くんおかしくなっちゃったのよ。」
「そうですか。恋、あなたは何もされてないですか?」
「大丈夫よ、建人。何もされてないから。」
最近、建人はよく電話をかけて来るようになった。
和くんの事でストレスが溜まっているから、建人に話を聞いて貰えるだけで心が軽くなった。