第18章 ●嵌める●
焦って廊下の方を見ると、息を切らした恋ちゃんが立っていた。
「またやってんの?しかも、女の子泣かせるとはいい根性してるわね。このクズ。」
あぁ、女神さまぁ!
「いややわぁ、誰が女の子いじめてるって?」
「恋先輩、直哉くんがいじめてました。」
何チクッとんねん。
後でシメたる。
「直哉!まったくアンタって子は……」
「ウッ…ウウ……♡」
今日は蹴りやないんやね。
右手で俺の顎をクイっと掴み、親指と人差し指でほっぺたをグニって挟んでる。
「この間お尻蹴っちゃったから、今日は顎にしてあげる。」
うわっ、奥さんちょっと今の聴きはりました?
やっぱり恋ちゃん、優しいわぁ。
「んー、んー。」
ほっぺた挟まれてるからなんも言われへん。
「直哉、女の子いじめるんじゃないよ。わかった?」
「んー。」
そこでやっと顎から手を退けてくれた。
「わかった。もうせえへんから、許して。」
「わかった。お利口さん。じゃ!」
「じゃあねぇ!恋ちゃん!」
その後、何でか女の子たちが失笑しとった。
何でや?
恋ちゃんは実はめっちゃ優しいんや。
この前お尻蹴られた時も、実は放課後に様子見に来てくれてん。
「思いっきり蹴っちゃってごめんね。大丈夫?痛くない?」
「ちょびっと痛い。」
ほんまはなんも痛なかったけど、あえての嘘。
「ほら、お尻出して。さすったげる。」
お尻を恋ちゃんの方に突き出す。
「はいはい。痛いの痛いの飛んでゆけー」
「ありがとう。治ったわぁ。」
「本当?よかったぁ。じゃあね、もう悪さしないでね!」
ひどく蹴った時はいっつもこうやって後からさすってくれんねん。
ほんま、ええ女や。
でも恋ちゃんが中学生になってからは全然来てくれんくなった。
一年後、俺は違う中学に進学したから会うこともなく、淡い初恋は終わった。