第2章 ●忘れる●
その日は母の何回目かの命日だった。
私は和くんといつもの様にお墓参りに行った。
「藍ちゃん、恋は呪術高専2年に進級したんだよ。」
お墓に手を合わせながら和くんが近況報告をする。
私は何も言わない。
帰宅してから和くんはお酒を飲み始めた。
毎年、恒例だ。
和くんは母の命日には必ず1人で部屋に籠り、お酒を飲む。
「和くん、おつまみどうぞ。」
私はおつまみを作り、持って行った。
「あー、藍ちゃん、ありがとう。」
和くんはもう既に酔っているみたいだ。
私を母と間違えている。
「和くん、私は藍じゃないよ?恋だよ。」
「…そっか。ごめん。藍ちゃんによく似てるから。」
「嘘だよ。ぜんっぜん似てないじゃん。私、母さまに似てるだなんて言われたくないっ!」
「似てるよ。そんな風に気の強いところなんかそっくりだよ。」
和くんはそう言うとグラスを持ってお酒を喉に流し込んだ。
「ねぇ、和くん?母さまの事今でも好きなの?」
私は意を決して聞いた。
今まで怖くて聞けなかった事を。
「まぁ、そうだな。」
和くんは静かに言った。
「ねぇ、私じゃだめ?私じゃ藍ちゃんの代わりになれない?」
声が上擦ったけど最後まで言えた。
「ガキが何言ってんだよ。」
「ガキじゃないわよ!来月で17になるのよ。」
「そっか…もうそんなになったのか…来いよ。もうガキじゃないんだろ?」
和くんはそう言うとグラスをテーブルに置き、私を見つめた。
私は椅子に座っている彼にゆっくりと近付いた。
目の前まで行くと、抱き寄せられてキスされた。
タバコの香りがした。
触れるだけのキス。
でも、私の腰は彼の腕でしっかりとホールドされている。
ゆっくりと顔を離される。
彼の瞳は潤んでいた。
きっと彼の瞳には母が映っているのだろう。
そう思うと悲しくなったけど、私が望んだ事だから。
母の代わりでもいいって。