第2章 ●忘れる●
それからひと月後、龍藍はこの世を去った。
お葬式には一族が集まった。
父も来たが、すぐに帰って行った。
車に女の人が乗っているのが見えた。
お葬式の後、大ババ様が言った。
「恋よ。和臣夫婦はワシの所へ連れて行く。跡継ぎじゃからの、和臣は。あやつらがおらんなったらお前困るじゃろ?一緒に来い。」
和臣おじさんはとても優秀な術師だ。
「えぇっ?あそこに?学校とかどうするの?近くにないでしょ。」
私が焦っていると、和くんがこちらへやって来た。
「大ババ様、恋は俺が面倒見るよ。」
和くんは腰を曲げて大ババ様に視線を合わせ、笑顔で言った。
「このたわけが!」
大ババ様がキッと睨む。
「えーだめぇ?俺さぁ、他所の女に身の回りの世話されたくないんだよねぇ。だって母さん居なくなるんだろ?誰が俺のご飯作るの?恋に作ってもらいたいなぁ。嫁入り修行にもなるしいいでしょ?大ババ様。」
相変わらずの笑顔で大ババ様を見てる和くん。
「仕方のない奴じゃ。藍の忘れ形見じゃ、しっかり守って責任を果たせ。」
結局、大ババ様は和くんに弱いんだ。
こうして私は初恋の相手であり、母親の元恋人でもある和くんの世話をするために一緒に暮らす事になった。
世話と言っても食事の支度、和くんの部屋の掃除くらいで後は屋敷の中に住み込みの使用人が複数いるから、その人達がやってくれる。
料理も掃除も全く出来ない和くんのおかげで、私の家事力は驚異的に上がった。
和くんは私の保護者として参観や三者面談にも来てくれた。
建人は相変わらずウチに時々遊びに来ては、私と一緒に和くんに稽古をつけてもらっていた。
そんな生活が数年続いたある日の事だった。