第2章 ●忘れる●
「わかった。話してくる。」
そう言って病室のドアを開けた。
部屋の中にはベッドに横たわるあの女がいた。
「恋、久しぶり。」
ゆっくりと体を起こすとか細い声で言った。
ずいぶん痩せている。
顔色もすごく悪い。
「何の…用?」
ぶっきらぼうに聞いた。
本当は話なんてしたくないから。
「…色々、悪かったと思ってるわ。勝手に産んでほったらかしにして。」
昔の威勢のよさは消えており、言葉に覇気はなく弱々しい声だった。
「…いまさら遅い。それに、私が辛かったのはそれじゃない。」
私は込み上げる怒りを抑えた。
「それ…じゃないって?何?」
不思議そうに聞く母。
「和くん…何で?何で和くんと逃げたの?」
泣きながら聞いた。
「若い時から和の事が好きだったの。だけど、ウチのしきたりで結婚は外の人間としなきゃダメだったから…だから、告白する事もなく我慢してた。そしたらストレスで。だから遊んでたの。でも、1年前に和からずっと好きだったって言われて…」
母の言葉に苛立ちを覚えた。
「何よ、それ。じゃあ、父さまと私はどうなるのよ?我慢しなさいよっ!あんた一体いくつだと思ってるの?バカじゃない?」
キレて早口で捲し立てた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。」
母は泣きながら謝っていた。
「あんたなんか母親じゃない。和くんを返してよっ。」
そう言い残して私は病室を出た。
そこには和くん一人しかいなかった。
「恋!どうだった?」
和くんが私に駆け寄る。
私は泣きながら和くんに抱きついた。
和くんは私を抱きしめてくれた。