第2章 ●忘れる●
「ごめんなさい。おじさん、おばさん。」
私は居たたまれなくなって頭を下げた。
「恋ちゃん。あなたが謝る事はないのよ。」
「そうだよ、恋。悪いのは藍と和のほうなんだからな。それにおじさんは君のお父さんに謝らなければならない。」
この後、おじさんは父の所へ謝りに行ったそうだ。
でも、父は逆に頭を下げたらしい。
「お宅の大事な跡取りをウチのがたぶらかして本当に申し訳ない。娘もずっとお宅に預けたままで。」
父は平謝りだったそう。
父がそんな風に思っていたとは意外だった。
法事などで顔を合わせても元気か?としか言わない人だったから。
「和之進さんの事聞いたよ。大丈夫?恋。」
建人が母と和くんの事を知って会いに来てくれた。
彼の父親と和臣おじさんは古い知り合いらしく、彼は幼い頃からよくこの家に遊びに来ていた。
そして、私たちは親友と呼べるくらいに仲良くなっていたのだ。
「建人…私、あの女は絶対許さないから。」
和くんを好きな事は建人も知っていた。
「あの女って君のお母さんでしょう?」
建人が不思議そうに聞いた。
「母親だなんて一度も思った事ない。嫌な女よ…信じらんない、和くん…なん、であんな女と…ック…ウゥッ…」
「大丈夫、僕がいるから。」
建人は私の手を握って慰めてくれた。
その優しさに甘えて大声で泣き喚いた。
それから1年ほど過ぎた頃、思わぬ事が起こった。
母が重い病気を患い、入院しているという知らせが入ったのだ。
その知らせはもちろん和くんからだった。
おじさん達と病院に向かった。
母がいる病室の前の廊下に和くんが一人佇んでいた。
「和之進、お前というやつは一体何を考えているんだ。」
和くんを見るなり、おじさんが怒鳴った。
「あなた、ここは病院ですから。」
おばさんが必死に宥める。
私はただ、その場に立ち尽くしていた。
「恋、早く藍ちゃんに会ってあげて。君を呼んでるんだ。」
和くんが私に向かって言う。
よくよく見ると、少しやつれたような顔をしていた。
「私…別にあの女と話す事なんてない。」
「恋、そんな事言うなよ。」
和くんが悲しそうな顔で私を見る。
そんな顔しないでよ。
そんな目で見つめないで。
心が張り裂けそうな思いがした。