第2章 ●忘れる●
建人とは幼い頃からの知り合いだった。
私の家は京都にあるが、本家は京都から遠く離れた山奥の中にある。
一応、呪術師の家系だ。
その山がある地域では絶対的権力を誇示している。
現在、私の曾祖母にあたる大ババ様が山奥の屋敷に住み、当主を勤めている。
大昔はその辺り一帯の地主だったそうだ。
即ち、呪術師の家系と言っても御三家ほど古い訳でもなく、一家相伝の術式がある訳でもない。
ただしウチの家系には代々、蛇の呪霊を体に飼った状態で産まれてくる者がいるのだ。
私もその内の1人。
でも、中には蛇をもたずに生まれるものも少なからずいる。
私の母、藍がそうだ。
だけど母には生まれ持った美貌と、それを存分に活かす知恵があった。
母は自分の美貌を巧みに使い、あらゆる男達を虜にしたそうだ。
しかし、一人っ子の母は蛇を飼っている子供を産まなければならない。
なので、見合い結婚して21歳で蛇を飼ってる私を産んだ。
母は私を産んだ事で役目を果たしたと言わんばかりに、子育ては使用人にまかせ、夜な夜な遊ぶようになった。
幾人もの男達と。
両親は良く喧嘩をしていた。
「お前!良い加減にしろっ。」
「なんなのよ!子供産んでやったんだから良いじゃないの。」
こういう喧嘩が毎日繰り返された。
私が5歳の頃、見かねた母の従兄弟の和臣おじさんさんとその妻が私を引き取って育ててくれる事になった。
「和くーん、かくれんぼしようよー」
おじさん夫婦には和之進と言う私より15歳も年上の息子がいた。
「ごめんなー恋。俺、今から仕事なんだ。」
そう言うと和くんは私の頭をポンポンと優しく撫でた。
彼も私と同じく体に蛇を飼っていたから、呪術師として働いていた。
背がとても高くて手が大きくて笑った顔がとってもかっこよくて、そしてすごく優しくて。
私の初恋の人だった。
おじさんもおばさんもとても良い人達で、私は幸せな日々を過ごしていた。
だけど…私が中学2年の時、和くんはあろう事か私の母と蒸発した。
「あの2人は昔から仲良かったわよ。」
「そうそう。藍様が5歳の時に和之進様がお生まれになったんだから。年も近いしこうなったっておかしくはなかったんだよ。」
使用人達が噂話をしているのを聞いてしまった。