第14章 ●逃げる●
「悟は最強になった。任務も全て1人でこなす。硝子は元々危険な任務で外に出ることはない。必然的に恋と私も1人になることが増えた。最近は特に忙しかった。昨年頻発した災害の影響もあったのだろう。蛆のように呪霊が湧いた。祓う、取り込む、その繰り返し。恋は呪霊の味を知ってる?」
突然質問を投げられたので一瞬、戸惑った。
「えっ、どんな味なの?」
「吐瀉物を処理した雑巾を丸飲みしている様な味だよ。」
想像しただけで吐き気をもよおしそうになる。
「うわっ。大変だね、夏油。大丈夫?」
思わず夏油の顔を見る。
「君だけは優しいね。」
君…だけ?
何だか怖かった。
沖縄の時の事を思い出した。
あの時も何だか怖かった。
「祓う、取り込む。誰のためなんだろう?」
夏油がボソッと呟いた。
「夏油……」
何も言えなかった。
どう声を掛ければいいのかわからなかった。
「ごめん、私はこれで失礼するよ。」
そう言って立ち上がる夏油。
「わかった。じゃあ、またね。」
いつもなら硝子の事を気にかける夏油がそのまま立ち去って行った。
どうしたんだろう?
「龍さん、大変です!」
「どうしたんですか?」
次の日の夜。
私は単独での任務を終え、高専へ戻ってきた時だった。
補助監督さんが慌てて知らせに来た。
「灰原くんが討伐に失敗して死んだって。」
「う、そ。」
私は耳を疑った。
「恋。」
急いで廊下を走っていると夏油に会った。