第14章 ●逃げる●
「マジ?」
「マジ。大マジ。」
「キスもダメなの?」
「らめぇ。」
「うわっ、そんな言い方する?その気になっちゃうじゃぁん。」
「わざとだもん。」
「お前、Sっ気あるんだな。」
「そんな私はキライ?」
「大好き♡」
「じゃあ、我慢してねっ!」
「せっかく惚れた女に好きだって言ってもらったのにおあずけなんてひどすぎるぅ。」
拗ねる悟。
「自業自得。」
一蹴する私。
それから2ヶ月と少し経ったある日。
「あと少し!あと少し!ひゃっほい!」
「朝からご陽気で何より。こっちは二日酔いで頭痛いんだから少し静かにしてもらえないかねぇ。」
朝から浮かれる悟に対し、げんなりしている硝子。
「悟、うるさい。」
「はーい、ママ。ごめんなさーい。」
「誰がママよっ!」
このところ、私の事をママと呼ぶ悟。
「仲がいいねぇ、君たちは。それにしても、朝からこんなところに呼び出して何をするんだい?悟。」
悟は寮の裏にみんなを呼び出していた。
「ちょっと試したい事があってさ。手伝ってよ。」
悟に言われて私はペンを、夏油は消しゴムを悟目掛けて投げる。
するとペンは悟に当たる前に止まり、消しゴムは当たった。
真横で見ていた硝子が感嘆の声をあげた。
「スゴッ!どういうこと?」
「今までマニュアルでやってたのをオートマにした。呪力の強弱だけじゃなく質量・速度・形状からも物体の危険度を選別できる。毒物なんかも選別できればいいんだけどそれはまだ難しいかな。これなら最小限のリソースで無下限呪術をほぼ出しっぱにできる。」
悟が語った。
「出しっぱなんて脳が焼き切れるよ。」
硝子が言うと、
「自己補完の範疇で反転術式も回し続ける。いつでも新鮮な脳をお届けだ。前からやってた掌印の省略は完璧。『赫』と『蒼』それぞれの複数同時発動もボチボチ。後の課題は領域と長距離の瞬間移動かな。高専を起点に障害物のないコースをあらかじめ引いておけば可能だと思うんだ。硝子、実験用のラット貸してよ。」
と、悟が返した。
その日の午後、悟は任務に出かけ、硝子は二日酔いが抜けきれずにロビーのベンチに横になっていた。
私と夏油は硝子の側のベンチに腰掛けていた。
すると、夏油が独り言のように語り始めた。