第13章 ●ハマる(五条の場合)●
車が高専の門を通ってしまった。
恋の手を離すのが名残惜しい。
俺から離すのは嫌だから向こうが離すまで待っていようと思った。
しばらくして車が駐車場に止まり、エンジンが切られた。
「お疲れ様です。」
補助監督が言った。
「おつかれっす。」
「お疲れ様です。お世話になりました。」
恋は挨拶したのに手を離そうとしない。
俺は、恋が離すまで離さない。
「先、行ってますね。」
補助監督は気を利かせたのか、そそくさと車を降り、どこかへ消えた。
沈黙が続く。
俺はまだ窓の外を見てる。
恋はどういうつもりだろう?
「3ヶ月だよ。」
沈黙を破ったのは恋だった。
「3ヶ月?」
「私、また禁欲してる。」
「俺も。」
「本当?」
「うん。お前は?傑とは何もないの?」
「……………………」
長い沈黙が続き、俺は恋の方を見た。
「ハァ?何言ってるの?」
恋はこっちを見てた。
怒りの表情で。
「だってお前ら仲いいじゃん。」
「五条のバカ!大っ嫌い。」
恋はほっぺをぷくぅと膨らませた。
その顔がとてもおかしかったけど、同時に愛しくも思えた。
何故なら、手は繋いだままだったから。
「なに可愛いことやってんだよ。」
にやけながら言った。
「ンッン、ンンンン。」
ほっぺを膨らませたままで何かを言いたそうにしている。
「何?何が言いたいの?」
そう言いながら近づく。
「ンンーン、ンンッ。」
恋の目が潤んでる。
「苦しいんならさっさと息吐けよ。」
このままキスしようと顔を近づけた。
その時、
コンコン
誰かが窓を叩いた。
「プハァー、ハァッ、ハァッ。」
恋が息を吐いた。
「傑!?何してるんだ?」
傑だった。
まったく、いいところだったのに。
「それはこちらのセリフだよ。先生が報告を待っているよ。」
「ヤバッ、また夜蛾に怒られる。」