第13章 ●ハマる(五条の場合)●
次の日、朝早く起きた俺は恋の部屋の前まで行った。
すると、何だかいい匂いがしてきた。
「これ、アップルパイ?」
独り言を言っていると、後ろから声がした。
「せいかーい!」
「硝子」
「恋の事気になる?」
「もちろん。」
「あの子、ストレス溜まるとお菓子作るんだって。」
その話は聞いた事がある。
本家にいた頃も時々作っていたから。
「俺のせい……か?」
「だろうね。」
そしてその日から思い知らされた。
恋は自分からは絶対俺には近づかないし、話しかけてもこない。
俺が話しかけてもそっけなく、ほとんど話してくれなかった。
そして何故か傑とは親しげに話す。
休みの日には2人で出かけたりもしている。
俺はこっそり後をつけた。
結局、バレて恋に睨まれた。
だけど、俺は常に恋の近くにいるようにした。
終いには硝子にストーカー呼ばわりまでされる始末。
それでも、恋への想いは変わらなかった。
俺は決めた。
恋が許してくれるまで待つと。
そんな日々が3ヶ月ほど続いたある日、俺と恋2人での任務の指令が入った。
「五条、任務に私情は挟まないから。」
行きの車の中で恋に言われた。
あれ以来、俺のことを五条と呼ぶ。
「わかってるよ。俺も私情は挟まない。」
嘘だ。
挟みまくってやる。
恋を守るために。
「恋、強くなったね。」
前よりも随分強くなった恋。
俺の助けがなくても1人で呪霊を祓えた。
「ありがと。五条。」
ニコッと笑う恋。
左肩が出てる。
露出ヤバい、我慢できなくなる。
帰りの車の中で何気なく手を下ろすと、恋の手に触れた。
久しぶりの感触にたまらず手を握ってしまった。
本当は顔を見たかったけど、恥ずかしくて窓の外の景色を見るフリをした。
そしたら、恋の手にギュッと力が入った。
俺も少しだけ力を入れた。
ドキドキした。
こんな感覚は久しぶりだ。