第13章 ●ハマる(五条の場合)●
「そうなの?」
「ごめんね、悟。私、実は婚約してるの。その婚約者が長期の海外出張に行っちゃって、寂しかったから遊んでたんだ。でも親に怒られたから家出して、そしたら丁度悟に会ったの。あなたに求められて何だか嬉しくって。久々にときめいちゃったのね。だけどさっき彼からもうすぐ帰るって連絡あったの。だから、私帰るわ。」
この女、ぺらぺらと。
「じゃあ何で恋にあんな事したんだよ。」
「それは、女心よ。あの時は悟を取られたくなくて必死だったんだもん。」
「……もういい。じゃ。」
そう言って部屋を出た。
女心?
そんなのアンタだけだろ。
恋はそんな女じゃない。
俺の頭の中は恋の事でいっぱい。
再び恋の部屋に来た。
ノックすると、恋がドアを開けてくれた。
傑の部屋から帰ってきたいた。
「恋」
「何?」
「先輩にはもう会わないって伝えたから。
それに、あの人本当は婚約者がいて、その人のところへ戻るんだって。」
「婚約者?」
「ああ。俺もさっき知った。」
「騙されてたの?」
「俺がバカだった。許してくれ。恋、お前が好きだ。」
「私にちょっかい出してこんなに好きにさせたくせに、どうして他の女作ったの?」
「だからさ、今からお前を俺の女に…」
「遅いんだよっ!バカ男!」
恋は泣きながらそう言うとドアを閉めた。
もう遅いのか。
重い足取りで部屋へ戻った。
ベッドに横になったけど眠れそうにない。
すると、どこからか声が聞こえた。
「悟、好きよ。」
幻聴が聞こえる。
俺、おかしくなったのか?
恋の事を想う。
俺に傷つけられて泣いていたんだろう。
想像すると涙が出た。