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鬼殺の謳(仮)

第1章 第一章


「…母さんの分も俺が生きてあげるから。安心して神様に会いに行って」

 飛び散る血を浴びながら少年はつぶやく。もう息をしていない遺体の前で少年は声を殺して泣いた。あまりにも母の表情が穏やかだったから。
 どれくらいの時間が経っただらうか。息を引き取った遺体を丁寧に埋めて簡易的な墓を作り少年はその場を後にする。
 自分がしなければならない目的を達成するために、少年は歩み出した。

 
 
 母の死からどれほどの季節が過ぎただろうか。
 帰る家を失い、家族も失ってしまった。1人で生きていく金もなければ自分には行くあてもない。
 兎や子どもの猪の命をいただきながらなんとか生きてきた。時には自分の身体を犠牲にして金を得ることもあった。

 今は夏。太陽が放つ灼熱の光が痩せ細った少年の体に神々しく照りつける。
 額から伝う汗を拭いながら少年は水場を求めて山を進む。

「さすがに暑いな…。どこかで水を汲まないと、水が底を尽きてしまうな」

 少年は腰にぶら下げている竹で作った水筒を軽く振り、水の残量を確認する。チャポチャポと高い音が水筒からすると、水がほとんどないことがわかる。水がなければこの気温の中山を歩き続けることはできない。なんとか水を汲める場所を求めて歩みを進める。
 しばらく歩き続けると前方に人影が見えてきた。笠をかぶり、白い装束に錫杖のようなものを突きながら歩く人物をみて、自分と同じ旅をする僧侶かあるいは信仰深い信者なのだろうと思い、ダメ元で水場がどこにあるかを尋ねてみることにした。
 前を歩く人物に追いつくため小走りに行けばすんなりと追いつく。

「もし、すみません。お尋ねしたいことがあるのですが」

 ちょんちょんと肩に触れながら声をかけると、笠をかぶる人がこちらを振り返る。
 
「はい、なんでしょう」

振り返った人物は想像よりも若かった。30過ぎの若い男性であった。修行僧のような格好をしていたものだからもっと年老いたころだろうと想像してしまっていた。

「ここらで水を汲める場所を知りませんか?水が底をつきそうで困っているんです」

「………それでしたら私が案内して差し上げましょう」
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