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鬼殺の謳(仮)

第1章 第一章


 少年は歌った。
 ひたすらに歌った。
 喉が潰れようと歌った。
 少年は平和を願った。
 ひたすらに願った。
 自分の身が滅びようと願った。
 
少年は………………

 「…世の中は理不尽だ。優しい人間ばかり死んでいく。心の弱いものが自分を守るために他者を傷つける」

 少年は眼前に広がる血溜まりをぼんやりと眺めながらボソリと呟いた。

「どんなに芯がある人だってこんなにあっさり悪魔に身を売るんだ」

 血溜まりの中の塊がもぞもぞと動く。少年はその気色悪い塊でさえぼんやりと眺める。

「かわいそうに。こんな世に生まれてきてしまって。こんな姿になって」

 塊からすっと人の手が伸びる。どうやら血溜まりの中にいる塊は人の形を成しているようだ。けれど血まみれでその表情は見えない。

「俺が楽にしてあげる…。来世では平和に生きれるといいね」






「母さん」






 少年は自身の胸に手をそっと当て、小さな声で歌った。目を閉じ、頭の中で考えることは人でなくなってしまった母を天に召すこと。母との楽しかった思い出が次々と浮かび上がる。

「…っ」

 少年の目から涙が伝った。月明かりが反射してきらりと光る。

 血に塗れた人物が目を見開き耳をおさえる。まるでその歌を聞かないように。

「ダメだよ、母さん。俺の歌をちゃんと聴いて」

 目の前で耳をおさえる人物にそっと近づき、子供を咎めるような柔らかな声で自分の歌を聴くように促し、耳をおさえる手をそっと掴み耳から離した。そしてよく聞こえるようにそっと耳に近づき、囁くように歌う。
 少年の歌を聞き、苦しそうにもがくも耳の近くで歌われては抵抗はできない。母と呼ばれた人物は目から涙を流し目を見開き喉をかく。しかしその表情はすぐに安らかなものへと変化した。

「ご…………めんね…」

 掠れた声で謝罪する声が聞こえた。少年は歌うのをやめ、母を見た。その表情は穏やかで、けれど悲しい顔であった。何に対する謝罪なのだろうと少年は考える。人成らざるものになってしまったことへの謝罪なのか、少年1人を置いていくことへの謝罪なのか、少年にはわからない。
 考えているうちに母の呼吸は浅くなる。少年は今しかないと手に持っていたナタを振り下ろした。
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