第39章 respective
「隆…大丈夫?」
手を伸ばすと、三ツ谷が鋭く睨んできた。
思わずビクッと手を引っ込める。
「なんでなんも言わねぇんだよ」
「え…?」
「痴漢に遭ったとか、俺一言も聞いてねぇんだけど」
「あ…それは……
よくわかんなかったって言うか…」
「あ?なんだよそれ」
小首を傾げて上目遣いで睨んでくる三ツ谷はまるで先程の今牛にしていたかのような、敵に向けるそれだ。
「そんなに頼りねぇかよ俺。」
「違うよっ、そういうわけじゃ」
「お前って大事なことは昔っから
ホンットなんも言わねぇよな」
「っ…」
三ツ谷の見開かれた目に、
困惑した自分の顔が映っている。
「なんだよあの男は。
お前ってさ、付き合ってる男いても、昨日会ったばっかの男と簡単に親しくするような奴だったとは思わなかったよ。」
「っ!違う、あの」
「何も違くねぇだろ?」
「ホントに違うんだって、あの人は」
「なんで他の男のことそんな庇ってんだよ!!」
その怒声にビクッと怯み、口を開いたまま固まってしまった。
三ツ谷から、そんな大きな声が自分に浴びせられたことはない。
そんな軽蔑したような目を向けられたことも。
「っおい、タカちゃ」
三ツ谷はスッと横を通り抜け
足早に行ってしまった。