第39章 respective
その後、この今牛若狭という男は、
当時真一郎がやっていたチーム黒龍の創設メンバーなのだと語った。
今牛は黒龍創設以前、
東関東を仕切る12のチームが集まってできた「煌道連合」を率いる総大将で「白豹」の異名で恐れられていたらしい。
当時西関東を仕切った日本最大のチーム「螺愚那六(ラグナロク)」の総長であるベンケイとはトップ同士対立していたが、突如現れた真一郎によって両者共まとめ上げられ、黒龍が結成された。ということだった。
そういった過去のことを聞いていたら、
いつの間にか話に夢中になってしまっていた。
「真一郎はさ、俺にとってのヒーローなんだ」
そう語る時の今牛は、イカつい見た目に似合わずとても寂しげな笑みを浮かべていた。
やはり真一郎の突然の死は衝撃的だったに違いない。
「私にとっても、真一郎は私の生きる指針だった。
真一郎のおかげで私は初めて心を開けたの」
"過去の自分を受け入れろ。
受け入れることで強くなる。
受け入れないままだと
どこかでその弱さに足元を掬われる。
生きづらくなるだけだ。"
"本当に大切なことは喧嘩に勝つことじゃねぇ。
自分に負けないことだ。"
真一郎の言葉の数々は
今でも私を救ってくれている。
「あの…さ……」
ランは、今牛の口元をジッと見つめながら恐る恐る口を開いた。
「昨日からずっと思ってたんだけど…
その口に咥えてる棒は…なに?」
正直ずっとずっと気になっていて仕方なかった。
「あ〜これ?」
今牛は口からそれを引き抜き、
白い歯をニッと見せた。
「ストローだよ」
「は…?」
「俺さぁ、昔っから血の気が多くてね、
ムカつく奴いんとすーぐ噛み付いちまうの。
そしたら真一郎がさ、お前はこれ噛んどけって。」
「え」
「俺のために
常にストローいっぱい常備してくれてたわけさ♡」
「え」
いろいろとツッコミどころ満載である。
万次郎のためにいつもお子様ランチの旗を持ち歩いているドラケンが当時の真一郎と重なった。
この人と真一郎は、もしかしたら万次郎とドラケンのような関係性だったのかもしれない。