第39章 respective
好きなの頼んでと言われてしまったため、ホットラテを頼んだのだが、なぜか勝手にケーキまで頼まれていた。
「はい、どーぞ。食べて食べて〜
甘いもん好きでしょ?」
「えっ、なんで、」
「むかーしキミに会った時、真一郎が言ってたよ。
昔すぎて一瞬会った俺のことなんて覚えてないよね〜」
「会ってたんですか?!」
「うん。あの時は真一郎が、妹できたっつって小さい女の子連れててね〜。俺たちに向けるキミの視線が子供とは思えないくらい恐ろしくて今でも覚えてる。
昨日もそんな目ェしてたろ。」
「………。」
真一郎の友達…てことか。
当然私はこんな人覚えてない。
あの頃の私はきっと、男なんて一纏めに考えてたし、ただの敵だったし。
「俺は、今牛若狭。
キミは確か、ランちゃんだよね」
「…はい。」
名前まで覚えられてるんだ…
でも真一郎の友達なら、きっと良い人なんだろうな。
目の前のケーキをチビチビと食べながらそんなことを考える。
「ふっ…あの時も、そんなふうに難しい顔しながら鯛焼き食ってたな〜懐かしい。
それにしてもさぁ〜すげー色っぽくなったなぁ。
はじめマジで分かんなかったよ」
うっすら目を細められ、
そのどこか大人の妖艶さと言葉に、思わずドキッと鼓動が跳ねてしまった。
色っぽくって……
「…真一郎にも見せてやりたかったなぁ」
ハッとしたように目を見開いて手を止めるランに、今牛は淋しげに笑った。
「きっと喜んだよ、アイツ。」
「そ……かな……」
「うん。
ランちゃんのことすげー気にかけてたもん。」
「っ…」
胸がぎゅっと締め付けられる感覚がし、急いで紅茶を飲んで冷却した。