第36章 regain
「せっかく…隆にあげる…
バレンタインだったのに…」
あまりに絶望的すぎて
紙袋と箱にはポタポタと涙が落ちていった。
「あんなに…頑張ったのに…っ…」
その様子を、
ドラケンも万次郎も眉をひそめて見つめていた。
「ラン、ありがとな。」
ポンと、三ツ谷の手が頭に触れた。
「すげー嬉しいよ。ちゃんと食うから」
「ダメ……こんなの意味ない…
絶対あげられない…」
「何言ってんだよ。お前からのもんならなんだって嬉しいよ。それにこれ、俺のことを思って俺だけのために作ってくれたんだろ?食わせてよ」
「ヤダ…」
尚もまだ泣いているランに、
三ツ谷は「ったく…」と言って自分のカバンから何かを取り出した。
「ほら。じゃーこれと交換。」
「…え……」
それは、手作りの白雪姫のぬいぐるみだった。
「俺からの逆チョコな。」
三ツ谷は優しげな表情でにっこりと笑っている。
「ランは赤ずきんじゃなくて、白雪姫なんだろ?」
その言葉に、鼓動が大きく跳ねた。
自分がなんとなく言っただけの言葉を、三ツ谷は覚えてくれていた。
「俺もこれ、ランのことだけを考えて、ランだけのために作ったんだ。だからそれと、交換な。」
ハッピーバレンタイン
そう言って、三ツ谷はそのぬいぐるみをランに持たせた。
ランの涙は止まっている。
目を見開いたままぬいぐるみを見つめ、ただ茫然と固まってしまっていた。
三ツ谷は嬉しそうに紙袋を拾い上げた。