第34章 ratio*
その日の夜、万次郎の部屋に行った。
万次郎は初め、驚いたような顔をしていたが
「話したい…」と一言言うと悩ましい笑みに変わった。
ちゃんと言わなくちゃ。
万次郎にも…
私が隆との関係をグチャグチャにして苦しんでたなら、万次郎だって私との関係に苦しんでるはず…
「私…ね…」
たとえそれで嫌われたとしても…
「万次郎のことは…好きだよ。大好き。」
万次郎の目が一瞬見開かれ、
切なげな笑みになった。
まるでその先を知っているように。
「でもやっぱり万次郎のことは昔から…大切な家族にしか思えないの。大好きで大切だからこそ、ずっとそばにいたい。」
「…うん」
「だから今まで通り、仲良くしてほしい。今までみたいに、普通に笑い合える関係でいたいの。この先も、ずっと…」
「…うん」
少しだけ俯いた万次郎に髪がかかり、
表情が見えなくなった。
「中途半端な感情で傷つけ合いたくない。
そんなことで二度と笑いあえなくなるのも嫌だ。
いつかこの先の未来で、こんなこともあったねって笑い合える、そんな関係であり続けたい。」
私にとって万次郎は…
「万次郎は…私の命よりも大切な人だから。」
万次郎は、俯いていた目を大きく見開いた。
そのまま、開いていた唇が閉じ、奥歯を噛み締める。
思い切って顔を上げ、
涙を耐えてニッコリ笑った時、
ランの表情は歪んだ。
万次郎の笑みが少しだけ痛々しく思えたのと、罪悪感に駆られていたからだった。