第34章 ratio*
「おっ!千冬〜!こっちこっち!」
突然タケミチがそう言って手を上げた方向に
バッと視線を移す。
「えっ?」
千冬がこちらに向かってきて頭を下げた。
タケミチが呼んだの…?
「どうしたの、千冬?」
「…これ…どうぞ。」
スッと紙袋を渡してきた。
疑問符を浮かべたまま受け取り、
中身を確認する。
「っ……!!」
「きっと場地さんも…元気ないランさん見て、悲しんでますよ」
みるみる目頭が熱くなり、
グッと奥歯を噛み締めた。
それは、場地がよくくれていたどら焼きだった。
千冬は…
どこのどら焼きか知ってた…ってこと…?
「どこのかは、秘密ですけどね!
それ食べて元気だしてくださいね!」
「…あっ…ちふ、」
タケミチと千冬は、ランのお礼も聞かずに笑顔で去っていってしまった。
「…けい……すけ……」
ごめん…
と小さく呟いた。
場地の悲しんでいる顔と言うよりも、キレている顔が思い浮かんで、思わず頬を緩ませた。
「ふっ…ふふっ……」
圭介は多分怒ってるよね。
こんな情けない私を見て。
私、圭介の分までたくさん幸せになんなきゃいけないのに。
"ずっと笑ってろって言ったろうが…"
息を引き取る前、
私にそう言ったね。
「ありがとう…」
また私はこうしてあなたに助けられる。
これじゃ圭介はいつまでたっても
安らかに逝けないじゃん…!
元気出そう!
笑おう!
ランはどら焼きを齧りながら歩き出した。