第34章 ratio*
「いろんなことに臆病になる気持ち…わかります。
俺はヒナって存在ができてから、大切なものを守るためにめちゃくちゃ臆病になった。」
"あの頃は…今までは…
怖いものなんてなんにもなかったの。
でも…大事なものができて、強くなっていくぶん怖くもなっていった。負けることとか失うこととか…前よりもずっと…"
自分が柚葉に言った言葉が反芻した。
だけど…
とタケミチは真剣な目をして眉を釣りあげた。
「俺は、その分強くもなった。」
真っ直ぐと射抜くその目に
勢いよく突き刺された感覚がした。
「強いっていうのは、喧嘩に勝つことじゃない。
自分に…負けないことだから。」
"本当に大切なことは、喧嘩に勝つことじゃねえ。
自分に、負けないことだ。"
ハッと目を見開いたランの瞳には今、
タケミチの真剣な顔が、真一郎の姿と被って映っていた。
兄貴に似てると
そう言った万次郎の言葉が理解できた。
今更…ようやく…
私は1番大切なことに気がついたんだ。
私は今まで生きてきてずっと
"大切なこと"を履き違えていた。
大切なことは、自分が誰よりも強くなって
自分自身と大切な人を守ることだと思っていた。
だから弱くて甘ったれた自分は許せなかった。
今まで1度もそんな自分を許したことは無い。
だから今回も。
でもそうじゃなかった。
間違っていた。
本当に大切なことは、目に見えないこと。
本当に大切なことは
そんな自分にも打ち勝って
自分の気持ちに、誤魔化しに、嘘に、偽りの感情に
惑わされずに負けないことだ。
どんな事があっても…
決して。
それが本当の強さだった。