第34章 ratio*
「あんたはさラン、
なんにも変わってないよ」
そう言ってくれたのは柚葉だった。
「あの頃のまま。強いまんま。
カッコイイランのまんまだよ」
優しい柚葉の声に
胸が詰まりそうな感覚がした。
「私は…変わったよ。かっこよくなんかない…
もう…強くなんかもない…」
負け知らずだったから
たった一度の失敗が
たった一つの人生のたった一つの恋にまで
亀裂を走らせると思わなかった。
それと同時に
こんなに自分のカッコ悪さを思い知ることも。
「私は…変わったよ。」
傷がついている手のひらを静かに見つめた。
「あの頃は…今までは…
怖いものなんてなんにもなかったの。
万次郎だろうがそこらのクズ男だろうがなんだろうが…私はなんにも怖くなかった。」
膝の上で強く拳を握る。
三ツ谷と付き合うようになってから少しだけ伸ばして整えて綺麗にマニキュアを塗っている爪が手のひらに食い込む。
ほら、こんなところも私が女らしく変わった証。
この痛みが嫌というほど私のそれを思い知らせてくる。
「でも…大事なものができて、強くなっていくぶん怖くもなっていった。負けることとか失うこととか…前よりもずっと…」
私は…
何を目指していたんだっけ。
誰よりも強い人間になることを目指していたはずだ。
けれど私は……
気がついたら
女になることで弱くなっていた。
紛れもなく自分は女なのだと
自覚させられた。