第33章 realm
本当にいつも通りの三ツ谷。
もしも万次郎とあんなことがあったなんて知ったらどうなるだろうか…?
それでも三ツ谷はいつもみたいな冷静さでいるのだろうか。
それとも…怒ったりするんだろうか。
思えば、三ツ谷が本気でキレたり怒ったり不機嫌になっているところや取り乱しているところをほぼ見たことがない。
店を出ると、
自然に手を繋がれた。
「…隆の手…あったかい…」
「ランの手はちょっと冷たいな。
大丈夫か?」
「うん」
……やっぱり言えない。
それに、言う必要はないかもしれない。
言う理由だってないし…
わざわざ言って、事を荒立てたくない、
というか…
隆に嫌な思いをさせたくない。
私も嫌な思いをしたくない。
だから……いいよね。
万次郎とは…
どうしたらいいかまだわかんないけど…
きっとどうにか…なる……
そう自分を納得させることしかできなかった。
「ー…そんでペーやんがさぁ……
ラン聞いてる?」
「……。」
「おい、ラン」
「え?っあ、ごめん、そうそう安田さんね!」
三ツ谷が心配そうに顔を覗き込んできて
ビクッと咄嗟に目を逸らしてしまった。
「……。大丈夫か?」
「えっ?…な、にが?」
「なんか今日…全然目ェ合わせねぇし」
ドクンと激しく心臓が鼓動した。
嫌な汗が流れる感触。
「…そうかな?そんなことないと思うけど」
笑顔を作って三ツ谷に目を合わせると、
眉をひそめられた。
「……なんかあった?」
「えっ」
「なんかあったなら俺には遠慮なく言えよ?」
「なんにもないよっ?」
そう言うと、
三ツ谷が何かを言いたげに口を開いたかと思えば、また閉じた。